よく素人が宝石の善し悪しを判断するのは難しいと言われるが、人が他人と接する時、相手の特性である教養や人柄を直感的に判断するこができるように、宝石の魅力のあるなしを判別する能力を百人が百人持っていると言える。

ただ、人間にはさまざな感情や先入観がありこれが邪念となって判断を誤るということもしばしば起こり得る。

宝石を前にしてこの価値を判断する時、何よりも大事なのは心の冷静さである。邪念を追い払い虚心に宝石をみつめる事だ。専門家が外国で宝石の買い付けをする場合も一番注意することはこの心の冷静さである。

私にはこんな経験がある。私がセールスに従事していた頃、地方出張の時翌朝早く汽車に乗るため商品を自宅に持ち帰る事があった。

自宅で商品を整理していた時、横に四歳になる子供がいてその子にどれが一番きれいかと問うたところ子供がずばり選んだのは、その中で一番良いものであった。
偶然かと思い、その後二度三度試してみたがその度毎に同じ結果を得た。

この発見は私にとって大きな教訓となった。子供のような純粋な心が宝石を選ぶために必要なのだと知ったのである。

素人が宝石を買う場合でもこの原則はあてはまる。先ず大体の自分の予算を決めておいて、その予算に合う品をできるだけ数多く選び、その中で自分が純粋に一番魅力を感じたもの、きれいだと感じたものを選ぶのが賢い買い方といえる。

デザイン、細工についても同じである。

このためにはできるだけ品揃えの豊富な店で買うのが賢明といえる。

3.宝石の価値を判断する物差し
依田和郎(先代)「宝石について考える」

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