宝飾用のダイヤモンドは250トンの土砂の中から1カラットしか採れないという。
しかも一級品のダイヤモンドはその内の何百分の一しかない。

その原石をカットすると約1/3の目方になってしまう。
しかも上質で大きいものは幾何級数的に少なくなる。

同じ1カラットのダイヤモンドでも最高数百万円、」最低二、三万円まである。

エメラルドも色、輝き、形がよく、キズのないものは1カラット数百万円もし非常に少ない。
一方、品質の悪いものは千円程度しかしないものもあり、その量は莫大に多い。

今日、エメラルド、サファイア、ルビーの貴石類にも人工のものができていいる。

人工のエメラルドは天然のエメラルドと比べて色、輝きと全く変わらないといっていい位だし、鉱物学的にいってもほんの少ししか変わらない。

特にコランダムと総称されるルビー、サファイヤについては鉱物学的にも(比重・硬度・屈折率)に全く同じで色、輝きも天然のものとほとんど変わらない。

そしてむしろ天然のものよりもいい場合がある。
それではなぜみた時の魅力において差がないのに天然のいいものは数百万円もするのであろうか。

ずばり天然のものの稀少性によるものである。永年宝石を扱った人でも、色、輝き、形、と全ての点で条件のそろった宝石に魅せられ脳裏に焼きついて離れない最高のものはほんの数えるほどしかないものである。

このように、宝石の稀少性は宝石であることの絶対的生命である。

さて、一つの宝石が原石からカットされ生まれたとするとそれが砕かれてしまわない限り大きさ、色、形、輝きと全て永遠に変わることはない。

そして、何千年も世に伝えられ人から人へ国から国へと渡っていく。

このことは絵画や骨董と同じであるが、違うことは破損され難い事、保存、持ち運びが容易であるという事である。

ヨーロッパなどではどこの国も二度や三度は征服されたりしている。
お金は他国へ行くと通用しないし、絵画や骨董は運搬に不便である。その点、宝石はいかようでもなり、他国へ行っても通用する。

こうしと事からも不測の事態に対する人間の智恵として宝石が尊ばれる所以ではなかろうか。

宝石が時代を越え国境を越え普遍の価値観を保ち得たのは、宝石の二つの大きな特徴である稀少性と流動性によるものである。

5.宝石を持つことの意義
依田和郎(先代)「宝石について考える」